心の方程式

映画を見た。スウェーデンの田舎が舞台で、鮮やかな色彩がうつくしい。シンプルで心がかろやかになる映像だ。主人公は18才の男性。物理が好きで、人間関係が苦手。モノローグ「物理は人を裏切らない。感情のような複雑さがない。」彼は人の感情の動きを読み取るのが得意ではなく、人から触られることがきらいだ。つよいこだわりがあり、規則的な生活を大事にしている。アスペルガー症候群という設定だ。

 

彼は心をおちつかせるためにドラム缶でつくった宇宙船のなかに閉じこもる。この中に入れば人からの視線をさえぎることができる。彼にとって心やすらかな場所だ。

 

主人公の心のうごきは親にも理解してもらえない。お兄さんだけが彼を理解してくれる。理解してくれるたった一人の人で、大切な人だ。ところがお兄さんと彼女のアパートで彼が一緒にくらすことになり、彼の独特の性格に彼女は混乱する。彼女はとうとうおこって出て行ってしまう。

 

お兄さんが元気をなくしたのを見て、彼はおもう。兄さんはぼくにとって大切な人だ。ぼくがお兄さんに素敵な彼女を探さなくてはならない。彼は、お兄さんの好みをリストにし、それをもとに女性に訊いてまわる。けれど、すべてが一致する人なんていない。弟がそんな活動をしていると知ったお兄さんはいう。人との相性はそんな方程式ではきまらないよ。NとSの磁石のように、反対だからこそいい、ということだってある。

 

主人公はそこで、反対の人のリストもしらべる。そしてお兄さんにリストをわたす。このなかに最高の彼女がいるはずだ。連絡して。

 

お兄さんはいう。人が誰かを好きになるのはそんな方程式ではきまらない。自然にまかせればいいんだ。

 

彼は混乱する。どうしたらいいんだろう。そうだ、ときおり道で出会う女性がいる。彼女はきっとお兄さんを好きになるはずだ。そこで彼女と会い、お兄さんと会って、とたのむ。

 

彼女は公園で彼に音楽を聴かせる。ほら、世界が変わって見えるでしょ。二人は、彼女の家にいく。電話がかかってくる。彼女はそれを聞いて涙をながす。彼はいう。悲しいの?どうしたの?

 

彼はビデオショップで沢山の恋愛映画を借りデートについてしらべる。お兄さんのために最高のデートの場を用意しなくては。大切なドラムを売ってお金をつくる。彼女とお兄さんの出会いの場を強引につくり出す。森のなかの小高い場所にテーブルをもうけ、友人にたのんでバイオリンをひいてもらう。フランス料理を用意する。けれど、こんな出会いと設定にお兄さんは当惑する。でもね、と彼女はいう。彼はあなたのためにこんな素敵な準備をしたのよ。

 

彼はお兄さんにきく。『彼女は恋人になれそう?」「友達にはなれそうだ。」「恋人じゃなきゃだめだ」「恋人にはなれない」「そんなはずはない」「落ち着けよ」「なれるよ、絶対に」「落ち着けよ」彼は混乱する。ドラム缶の宇宙船に閉じこもる。

 

お兄さんは外から問いかける。「なぜ彼女をえらんだんだ」「消えて欲しくない」「きっと、また会えるさ」「兄さんをきらいなら、ぼくのこともきらいだ。ぼくは兄さんよりまったくだめだから」

 

ドラム缶の前に、彼女があらわれる。「わたしは消えたりしない。消えたのはあなたの方でしょ?あなたのこと、好きよ」「どうして?」「だって・・・」