ダリ美術館

福島市での用を終えたあと、諸橋近代美術館に行った。ここには世界有数のサルバドール・ダリのコレクションがある。

中学時代、家に美術全集があった。どの絵を見ても良いとはおもわなかった。けれど、ある日、ダリの絵を見た時、ショックを受けた。圧倒的な描写力をつかって、「いま、ここにないもの、そして頭の中にある世界をえがいている」。「夢と想像の世界」の画家だ。すばらしいとおもった。これが絵画なのだとおもった。

諸橋近代美術館はかなりの数のダリの作品をあつめている。このため、ずっと行きたいとおもっていた。

この美術館は福島県の猪苗代駅からバスで30分程度行った山中にある。うつくしい自然のなかだ。広い芝生の庭園と、池があり、その前に洗練された建物がある。わたしがおとずれたとき、来館者はほとんどいなかった。ゆっくりとしずかな時間をすごした。作品の数がおおすぎず、すくなすぎずといったところで、おちついてすごすことができる。心の奥底にはいりこんでくるダリの作品をゆっくりと見ることができた。

ダリは13才の時には先生について絵をならいはじめた。そして17才で王立美術学校に入学した。けれど21才のときに教授に反抗して学校を退学になった。ダリは、アーティストになろうとする人のためのアドバイスとして、「ひたすら絵をかきなさい」と言っている。好きなことにとことん熱中し、のめりこむこと。無駄ともおもえる若者の情熱がなにより大切であることをダリはかたっている。どんな分野でもそれはおなじだろう。

ダリが25才の時に、友人夫妻がたずねてくる。詩人のエリュアールとその妻のガラだった。ダリとガラは海辺を散歩した。ダリはそのころから特異な才能と性格で知られていたが、ガラはそんなダリを理解してくれた。ダリはそこにこころやすまるものをかんじたのだろう。ガラにおもいをぶつける。ガラはそれをうけいれ、夫とかえることはなかった。ダリはガラとともにくらしはじめ、その生活は50年以上もつづいた。ダリを理解してくれるたった一人の人だったとダリは言う。

やがてガラがなくなるとダリは一気に元気をなくす。やがてダリの死期もまたちかづいていった。さいごまでダリが大切にしていたのは、かつてガラがプレゼントしてくれた木製のちいさなおまもりだったという。