コブラ
寺沢武一のマンガ「コブラ」。自立した登場人物の設定とアメリカンコミックのような絵づくりは日本の通常のマンガとかなりちがう。
主人公は一匹狼の宇宙海賊コブラで、人にはたよらない。
コブラが愛し、信頼するもの3つは、とても象徴的だ。左腕に装着されたサイコガン、住居であり移動手段でもあるタートル号、そしてパートナーであるアーマロイドのレディー。
左腕についたサイコガンは、コブラとわかちがたい能力だ。個人が身につけた能力を象徴している。
タートル号はコブラが安心してねむることのできる場所だ。どんな人でもねむるときは無防備だから、眠る場所は安心を保証するものであってほしい。
レディーはすぐれた知性と決断力をもち、かつてコブラにとって最愛の人だった。けれど、コブラをまもるために重傷を負い、頭脳と心をメタルの体の中に移植した。今はもう生身の肉体を持たないけれど、強い信頼関係でむすばれている。お互いに危機にあるときは命さえもいとわずたすけにいく。精神的に深いつながりがある。
いくつかの物語をおもいだす。雪山に閉じ込められたレディーをコブラがすくい出しに行く。「こわくなかった?」と聞くコブラにレディーはこたえる。「ううん、かならずたすけに来てくれると信じていたから。」強い信頼。
二人が一時的に、以前の姿にもどる話。
光と闇のたたかいのなか、コブラは過去にもどり、敵との関係が過去にどのようなものであったのかを知る。過去を経験させる世界では、生なきものは生をあたえられ、生あるものは本来の姿にもどっていた。そこで、レディはかつてのすばらしい美女にもどり、コブラも整形前の姿にもどる。
二人は世界を元にもどそうとする。けれど、コブラは、ためらう。
「いいのか・・・この美しい星で永遠の時を生きることもできるのに・・・その体もまたアーマロイドになってしまうけれど・・・」
レディはこたえる。
「わたしたちが住む世界はここじゃないわ。それにここじゃハンバーガーは食べられないわ」
「悔いはないのか」
「ないわ、ただ・・・この一瞬を胸にきざんでおくわ」
二人は抱きあう
元の世界がもどり、アーマロイド姿のレディは、コブラに言う。
「過去はふっきれたわね。あなたにはもうこわいものはなくなったわ」
「いいや、ひとつある。おもいでさ」
コブラはせつなげにレディを見る。
レディは瞳のない両眼でそっと彼を見つめ、こたえる。
「思い出はこれからつくるものよ」