やわらかな心

サヘル・ローズさんという女優がいる。イランに生まれ、壮絶な人生をおくってきた人だ。戦争で家族をうしない、瓦礫のなかからすくい出された。そして孤児院でそだった。だから正確な誕生日はわからない。やがて一人の女性に引き取られたけれど、そのことをめぐって養母は実家と喧嘩になり、家を出ることになった。二人は知り合いをたよって彼女が8歳の時、日本にきた。けれど、トラブルに遭い、ちいさかった彼女をかかえ養母は路頭にまよう。日本の小学校にはいってからも生活は困窮し、またいじめにも会う。学校では日本語が不自由で、ちがいが目立つ子は阻害される。二人は身を寄せ合って生きて来た。もちろん世界にはおなじような経験をしてきた人が大勢いるだろうけれど、活躍していることが見られるわかい女性が、このような経験をしてきたということに衝撃をうける。

この人が長年にわたり日々書いている文章を読んだ。芸能界で仕事をはじめたときから、日々の生活の中で感じる気持ちを書いた7年あまりの記録。おとなと一緒に仕事をはじめたとき、多くの人が違和感をいだく。そのときの気持ち。対人関係のなかで感じたこと、うまくいったときの高揚感、失敗した時の無力感、さびしさ、さまざまな感情をありのままに表現している。わたしには父がいないけれど、と率直に書いている。やさしく、向上心があるためにこそ、傷つき、なやむ。こころのやわらかな部分がそのまま表現されているので、読んでいてくるしくなる。丁寧にこころのひだをえがく文章ではなく、感じたことを象徴的に表現している。特定の人や物事を特定されることをさけるために、ありのままに書くことを避け象徴的な表現をつかっている面もあるけれど、彼女の内面ははっきりと感じ取ることができる。

朝の光に希望を見、夕方の光のうつくしさに感動し、前を向いて生きようとしているのがつよくつたわってくる。掲載している写真は彼女の心の表現であり、あらゆるところに希望とよろこびをを見出そうとする。

しなやかで感受性のつよい心でうけとめられた、わかい心のゆらめきが、率直に表現された文章だ。読んでいて、くるしくなるけれど、すばらしい文章に出会えた。

サヘル・ローズさんのスピーチをTEDスピーチとしてYou Tubeで見ることができる。そこで彼女は2つのことをすすめている。
・夢を持ってほしい。夢をもつことができるのは、とてもすばらしいことだ。
 世界には夢を持つことができない人もいる。かつてのわたしもそうだった。
 わたしの夢は児童擁護施設をつくることだ。
・人とたくさんハグしてほしい。そうして愛情を感じることですくわれる人がいる。