モンテクリスト伯

中学時代に熱中して読んだ本に、アレクサンドル・デュマモンテクリスト伯がある。長い小説だったけれど夢中になって読んだ。

主人公のエドモン・ダンテスは無実の罪によりシャトー・ディフに無期懲役犯として投獄され、そこで一人の神父に出会う。身の上ばなしをするとファリア司祭は、その話からダンテスが誰によりおとしいれられたのかを解きあかす。ダンテスは落としいれられたことに気がつき復讐の念にかられるが、どうしようもない。当時の最高知性を持つ神父のもとで、外国語、数学、法学、哲学、薬学とあらゆるものをまなんでいく。牢獄での14年の年月がたつ。神父は発作を起こす。ファリア司祭の持病であり、司祭は死期がちかいことをさとっていた。自分のこどものようにおもっていたダンテスに、司祭は自分の死期がちかいことをかたるとともに、ひとつの話をする。かれはイタリアの貴族の最後の相続人として莫大な財産を継承していたのだ。それは国家をもうごかせるほどの財産であり、モンテクリスト島に隠されている。自分の息子たるダンテスはその継承者である。なんとかここを抜け出し、自分が狂人ではなかったことをしめしてほしい。そしてダンテスはその金をつかい、復讐をとげ、しあわせになってほしいと。

ファリア司祭の死後、その亡骸は海に投げ込まれるという。ダンテスは、亡骸を入れる袋にそっと入れ替わりはいる。やがて、そうとは知らぬ看守たちにより、ダンテスは袋にはいったまま海にほうりこまれる。嵐の夜だった。ダンテスは袋をやぶっておよぎはじめる。嵐の夜だ。けれど船乗りであり、生へのつよい願望をもつダンテスはおよぎきり、岩礁にたどりつく。やがて、とおりすぎようとする船にたすけられる。それは海賊の船だった。かれの髪は腰までもとどくほど伸びていた。船長はその風体にどこから来たのかあやしむが、船の操縦技術を見込んで、彼をやとうことにする。

ダンテスは海賊船に乗り機会を待った。やがてモンテクリスト島をおとずれるチャンスがやってくる。かれはそこで怪我をしたふりをして、一人島にのこる。ファリア司祭からおしえられた洞窟にはいる。とうとうそこで莫大な財産をみつけだす。

ダンテスは何人かの人の消息を調べる。父親は息子のかえりをまちながら餓死していた。逮捕されなければ結婚する予定だった許嫁、自分を落としいれた3人の男の消息をしらべる。彼の投獄はファリア司祭の推測の通りだった。彼は、かつて自分を助けてくれた人へのお礼をそっとする。そしてこれがあたたかな心をもつ人間として最後の仕事だと言うと、姿をけす。

やがて、パリの社交界に一人の紳士が鮮烈なあらわれかたをする。吸血鬼のように白い肌。すぐれた知性を持ち博学、射撃、剣術などあらゆる武術にたけていた、そして底知れぬ資産。かれはモンテクリスト伯爵と名乗っていた。社交界で注目をあび、多くの人と知り合っていく。

やがて検事総長の妻と息子、娘がなくなり、検事総長は発狂する。

一人の貴族院議員はかつてギリシャで王を裏切ったことが明らかになる。議会で証人として現れたのは、かつての王の娘である絶世の美女エデだった。彼女はモンテクリスト伯に買われた奴隷ではあるが、彼の加護のもとで自由に生きることができ、両親の復讐の機会を待っていたことを議会でかたった。議員の息子はモンテクリスト伯がしかけたものとにらみ、伯爵に決闘をもうしこむ。伯爵はその申し込みを受ける。帰宅したモンテクリスト伯のもとに、議員の妻があらわれ、息子の命乞いをする。彼女こそはダンテスの許嫁であったメルセデスだった。彼女は伯爵がダンテスであることに気がついていたことをかたると、息子の命乞いをする。伯爵は、なぜ自分が14年ものながきにわたり、とらわれなければならなかったのかとはなす。けれどメルセデスの嘆願により、決闘であえて負けることを約束する。メルセデスがかえった後、かれは「復讐のなかばなのだ。おれは心臓などむしりとっておけばよかった」とくやむ。

メルセデスは帰宅すると、息子に真実をかたる。息子は決闘会場にあらわれると、伯爵にゆるしを請う。かれは家に帰ると荷物をまとめ、母親とともに家を出る。自分が家族から見捨てられたことを知った議員は、伯爵の家へとむかう。お前は何者なのだと問われた伯爵は、そこで水夫の服装に着替えあらわれる。かつて無実の罪で牢獄に入れられ、さらに許嫁をうばわれた男がもどってきたのだと。議員は馬車で家にもどると、自害する。

男爵であり裕福な銀行家は山賊にとらわれ、餓死寸前まで追い込まれる。伯爵があらわれ、身分をあかす。餓死した父親の気持ちがわかるか、と。銀行家は解放される。

モンテクリスト島。そこには伯爵の恩人の息子がいた。検事総長の娘を愛していたのに、彼女が亡くなったために絶望していた。この日までは生きるようにと伯爵に言われ島にやってきた。絶望から回復することのない若者に、伯爵は毒薬を与える。意識が朦朧とするなかでかれは検事総長の娘と出会う。彼女は伯爵により助け出されていたのだった。

伯爵は彼女にエデをあずけるので、今後ずっと彼女をまもってほしいという。役目を終えた自分は、まもなくこの世からいなくなるので・・・。そこにエデが駆け込んでくる。伯爵がいなくなるなら、自分はもう生きてはいない、と。エデのことばにより、伯爵=ダンテスは、今一度生きることを決意する。

やがて二人の若者は海辺で遠くのヨットを見ていた。モンテクリスト伯爵とエデと二人で去っていく船だった。

わたしは中学はいやだった。牢獄だと感じていた。そこでここは牢獄シャトー・ディフなのだとおもうことにした。今は一人、力をたくわえよう。感情など心からむしりとってしまえ。ダンテスとはちがい無期懲役ではない。3年間いればすむのだ。そんな風に考えていたわたしにとって、この小説はとても大切な本だった。